日本を代表する木造建築としてまず思い浮かぶのは、桂離宮ではないでしょうか。この世界に誇る数奇屋造りの建物、さぞかし素晴らしい木を使って造ったと思いきや、よく調べてみるとどれも大した用材は使われていない。それも当然でこれを造った桂宮様は、教養は素晴らしく高いものを持っておられましたが、お金持ちではありませんでした。だからむしろ粗末と思われるような木で、あのような素晴らしい建物を造ったわけですが、そこに本当の意義−日本分かが息づいていることも確かなのです。
考えてみると、あれほど外来文化が流入しても、日本の木造家屋は基本的に外国の模倣はしなかった。柱ひとつとっても中国のようには塗らず、西洋のようには装飾せず、その簡素な木の柱は、最もよく日本の伝統的な文化を伝えているもののひとつと言えましょう。
日本家屋のつくりは、壁で構成される石造りや煉瓦建築とは対象的です。基本構造は柱と梁および屋根であり、その木組の間の空間に天井や高床を張り、壁や障子や雨戸を配する。それは、かの吉田兼好が『徒然草』の中で「家のつくりやうは夏をむねとすべし。」と言っているように、蒸し暑い夏が過ごしやすいよう、風が通り、日ざしを和らげる工夫がなされています。また、自然とのつながりを大切に考えているのも特色で、家庭と庭をつなぐ澪縁があり、自然光の陰翳をつくり出す庇やすだれや障子が存在します。
ここで少し、家庭の内部に目を転じてみましょう。例えば、色ひとつとってもベージュ色を基調とした木、壁紙といった素材のなだらかな色彩のコントラストで構成され、とても精神を落ち着かせる空間を想像することができます。
「もし日本座敷を一つの墨絵に喩えるなら、障子は墨色の最も淡い部分であり、床の間は最も濃い部分である」とは、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」の一節。鮮明な色を排除した中に、柔らかな光を通して濃い影、淡い影がゆらめく室内は、日本人の美意識の高さの証明でもあります。そして−それは、すべて木を中心とする自然素材のなせる技にほかなりません。
では現代の私達の生活と結び付けると、例えば、“目に触れる、肌に触れるところに木を使う”だけでも、その良さを感じることができるはずです。自然の素材の美しさを生かして住まいに取り入れること。−それが日本の風土に合った、日本人の心に添ったやり方であり、木は今の私たちの暮らしに、もっともっと身近であっていい、と考えるのです。
ホームページへ